70周年記念誌
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“息遣い”がそのまま音楽になる楽器。036オーボエに熱中していた私の人生をがらりと変えたのは、大学3年生のときに偶然目にした動画サイト。オーボエのようなやさしさを持ちながらサックスやバイオリンのようにも聞こえ、どことなく懐かしい味わいもあるクロマチックハーモニカの多彩な音色にどうしようもなく惹かれたのです。「吹く」だけでなく「吹く」と「吸う」を組みわせて音を出すこの楽器は、人の呼吸そのもの。奏者の“息遣い”がそのまま音楽となって表現されるのです。もっと言えば、その人の“生き方”が音になる。実際に今、クロマチックハーモニカの指導もしているのですが、年齢を重ねた方の音色は、私には出せない「その人が生きてきた時間」が表れるんです。オーボエとの両立を目指すことも考えましたが、どちらの楽器も知れば知るほど奥が深く、片手間ではとうてい満足できるところまで到達できないと感じました。また同時にクロマチックハーモニカの認知度が低いことも知り、「この魅力を伝えるのが自分の使命だ」と、オーボエで培った技術や音楽性を活かしながらクロマチックハーモニカ一本で生きて行くことを決めたのです。大切にしているのは、目の前にいるのが一人でも一万人でも、そこにいるすべての人の「心に届く音」を奏でること。そのためにも“今”私がどう生きるか、を大切にしています。

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