内田樹『街場のメディア論』(光文社新書)

【K.A.】

 「第一は、メディアというのは『世論』を語るものだという信憑。第二は、メディアはビジネスだという信憑。この二つの信憑がメディアの土台を掘り崩したと僕は思っています。」これを読んで、衝撃を受ける人は少なからず居るだろう。毎日自分たちが当たり前のように見ているテレビ、読んでいる新聞や書籍は必ず正しいと思ってしまいがちだ。メディアが世間の常識的模範を示している、と。しかし、どうやら違うらしい。

 メディアが世論を創り出している。国民(弱者)の立場を代弁しているつもりで、常になにかを標的にして批判している。常に強者と弱者の二者択一で弱者の味方をするのがメディアだ。それは「推定正義」の適用で、間違った行動ではない。しかし、ここで問題になっているのはメディアにはその「自覚がない」。さらに「一度『正義』だと推定したら、それは未来永劫『正義』でなければならない」と思っている。こうした行動が、あらゆる現場に問題をもたらしている。

 本書で内田は特に、医療現場と教育現場に焦点を当てている。どちらも、本来であれば資本主義が持ち込まれてはならない場所だ。しかし、メディアのこうした行動により、持ち込まれているのだ。なにか問題が起きれば、弱者である個人が保護され、強者である組織が批判される。必然的に、両者の間には利害関係が生まれ、商取引モデル的発想が浮かびあがる。そうすることで、その組織が向上すると思っている。そして、知らず知らずのうちに個人は「消費的にふるまう」ことが組織の向上に必要不可欠であると思い込み、「クレーマー」的行動を起こしてしまう。こういった流れが医療崩壊や教育崩壊を招いている。

 では、どうすればこの危機的事態を逃れることができるのか。本質的な問題とは何なのか。ぜひ本書を読んで理解していただきたい。

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