内田樹『街場のメディア論』(光文社新書)
【H.S.】
ありがとう。読了後の気持ちを表すなら、この言葉がぴったりだ。今まで耳にしたことのない、斬新なメディア論が飛び交う目から鱗の一冊。
文章の一言一句には魂が宿る。今までメディアが、医療や教育といった社会制度に土足で踏み込んできても、誰も何も言わなかった。挙句の果てに、我もの顔で勝手に部屋を散らかし始めても、誰も見ないふりをしていた。変化を求め「事件」を欲するあまり、私たちは盲目になってしまったのか。その沈黙を破ったのだ。それだけに、著者の覚悟と迫力が身に迫る一冊。読まずにはいられない。
まずは、メディアの本質を知ろう。とりわけ、メディア張本人にとっては多少の痛みを伴うかもしれないが、無知は「暴走」の温床と化す。しかし、そもそも「メディアの張本人」って誰? いわゆるマスコミサイドだけではない。私たち「視聴者」もメディアを形成している一部分なのだ。意外に見落としている穴だと思わないだろうか。
ここまでメディアを凋落させたのは、あなた? わたし? 責任の押し付け合いはもうやめよう。そこには構造的な仕組みがある。あなたもわたしも、しっかりと組み込まれたメディアの当事者。互いに加担しながら現在のメディアをつくりあげた。そこの部分を読み解く鍵が本書にはある。
「生き延びられるものは生き延びよ」。合図は響く。今私たちに、崩壊を続けるメディアを救う時間と余裕は、正直ない。それぞれが向こう岸を目指して進むのみ。崩壊した後に何が残るのか。私たちはどこに辿り着くのか。それは誰にも分からない。とりあえずは、自分の命があってこそ、である。足元がぐらつくなか、絶対に助かる「マニュアル」は残念ながら存在しない。沈没しかけている船の上では予期せぬことが勃発するものだ。けれど、本書は生き抜く知恵を授けてくれる。あとは、あなた次第。