内田樹『街場のメディア論』(光文社新書)

【I.M.】

 本書では、現代の多くの人々をとりまく「メディア」の問題について、発信者と受信者となる両者の立場から切り込んでいる。メディアという形態はテレビ、新聞、書籍など違った顔があるものの、それが対象としている多くは、消費者である「お客様」なのだ。例えばテレビは、常に変化を追い求めて被害者の立場を先取する。新聞は読者に敬意を払うことなく、「誰にでも」わかる文章を求める。出版社は書物そのものではなく、書物という名の商品価値を追求することに必死である。

 ここで著者が問題視するのは、メディアというそれぞれの媒体がなんでもかんでもビジネスにしてしまうこと、そしてその結果多くの人々が「もっとも少ない代価で、もっとも価値のある商品を手に入れ」ようとする消費者となりつつあることだ。私たちは激変期にある現代のメディアについて知り、本来の在り方について考えることの必要性を迫られているのである。

 メディアの衰退を訴えるうえで重要な論点は、「消費者」を生み出す原因となる「ビジネス化」である。テレビメディアといえば本来、その発信力を活かしてありのままを伝え、公平な立場にいるべきメディアである。しかし現代のメディアは、「こんなことが許されていいのでしょうか」という「演技的無垢」や、誰にも責任の無い世論などを駆使して、異常なまでに変化に固執する「ビジネス」と化しているのだ。一方で出版社に関しては、読者を「消費者」と勘違いして「ビジネス化」を進めるという逆の現象が起こっていることにも注目したい。

 メディアという世界において実体験から発せられる著者の言葉は新鮮で、自分自身が現代のメディアに浸かっていることを実感できる一冊である。そして自分の現状を実感した後は、メディアの在り方とメディアとの関わり方について改めて考えてみる必要がある。

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