「動物嫌いな私の愛犬」
(動物嫌いで犬が怖いのに、犬を可愛いと思う気持ちを書きました。)
【I.M.】
「とうとう、我が家にも犬が来たか・・・。」
夕方帰宅すると、両親は買い物に出ていて家には私以外誰もいない。ただいつもと違うのは、リビングから「きゅう、きゅう」と声が聞こえていることだ。そっとリビングの戸を開けると、小さくて白い犬がこちらをじっと見ていた。一瞬のうちに「可愛い」、「どうしよう」、「ただいまって言うべき?」、「とりあえずリビングに入るべき?」などと、戸惑いが一気にあふれてきた私。とりあえず2階の自室へと避難した。
私の家族は動物が好きで、ずいぶん前から犬を飼いたいと言っていたのだが、私が10年以上否定し続けて、結局今まではカメや金魚を飼っていたのである。動物園は大好きだが、見る専門であり、ふれあいコーナーは怖いため遠くから眺めるだけ。道端を散歩している遠くの犬にもびびるくらい大げさなものだ。それがなぜ今になって犬を飼ってもいいと思い始めたのか。自分でも不思議だが、犬に対する私の頑固な拒否反応は、モモによって着々と消され始めている。
ある日、「マルチーズって毛も抜けへんし小さいし可愛いねんで」と、突然母から写真を見せられた。いちばん犬を飼いたがっていた母は、暇があれば2店あるお気に入りのペットショップに通っていたのである。マルチーズなんて、毛の長い高貴なイメージで可愛くないだろうと思っていた私は、写真を見て驚いた。ふわふわでまん丸い顔にまん丸い目の小さい犬。これがマルチーズ。一週間悩み、人生で初めてペットショップに行きたいと言った。「こんなに小さかったら、ちょっと触るくらい大丈夫かも・・・」という心の声が伝わってしまったのか、おせっかいな店員さんがショーケースからマルチーズを取り出してきてくれた。店員さんに勧められ、背筋がピンと伸びた姿勢を崩すことなく犬を抱っこする。しかし5分もすれば、自然と笑顔で犬をなでていた。私の中に変化が起こり始めていたのである。
帰宅して犬を飼うのもいいかもしれないと話すと、家族は私の気が変わらない間に一気に話を進め、3週間足らずで犬がやって来た。初対面から犬と2人きりになった私は、とりあえず着替えてそっとリビングに戻った。やっぱり怖いけど、可愛い。おとなしく座って「きゅう、きゅう」と控えめに鳴きながら、人が来るのを待っている。両親が帰ってきてから触ってみようと考え、「いぬ」と呼びかけながら見つめ合い、写真を撮ってみた。家族が集まる夜に名前会議をするため、その時はまだ名前が無かったのだ。 名前会議でモモと決定してからは、一気に名前を呼びまくり抱っこもした。初日は、なんとか慣れようと必死に可愛がっていた私も、今では「おはよう」や「ただいま」のあいさつをするのはモモが一番最初だ。10年以上犬を飼うことを拒否していた私はなんだったのか。私たち家族は早速モモを溺愛し、名前を呼んでふれあったり、写真を撮ったりしながら、犬がいるという充実した毎日を送っている。
しかし、もう犬も平気だと思った私は甘かった。散歩をしている犬とすれ違う時、必ずと言っていいほど無意識に避けている私。動物嫌いが直るにはまだまだ時間がかかるのかもしれないが、おもちゃを咥えてぽんぽん跳ねながらこちらへ向かってくるモモには、人一倍癒されている。