「安物買いの銭失い」

(笑いを取り入れつつ、ほのぼのした話を切なく)

【K.I.】

Scene 1

 彼女の名前は。びっちゃん。就職活動に勤しむ大学4年生だ。1週間後に控えている友達のむっちゃんの誕生日に備え、さっちゃんとみっちゃんと共に、サプライズパーティを準備することになった。サプライズ好きなびっちゃんは自分が率先して動き、着々と話し合いを進めていく。びっちゃんはバラエティグッズ担当になった。

 当日は4人とも就職活動のため、全員スーツで集合。お昼ご飯を食べ、、びっちゃんは、プレゼント担当であるさっちゃんと合流し、雑貨売り場へ向かった。

 びっちゃん「あ、アフロ発見」
さっちゃん「……被りたい」
びっちゃん「え!? うん、被ろうか。3つあればいいよね」
さっちゃん「赤、緑、黄色…種類けっこうあるね。でもレインボーは絶対欲しい」
びっちゃん「たっか!! 1つ2千円もするよ!?」

 必要なアフロは3つ。アフロに6千円もかける財布の余裕は2人にはない。どうする、びっちゃん。 びっちゃん「あ、安いのもあった」

 一回りほど大きさは違うが、まごうことなきレインボーのアフロ。お値段、なんと210円。むっちゃん用の誕生日ハットも合わせて、レジへと向かった。

 びっちゃんとさっちゃんは先に店に入って待機している。そこへ、むっちゃんを連れてくる係のみっちゃんから、予約より30分ほど遅れるとのメールが届いた。

 びっちゃん「……被っちゃう?」
 さっちゃん「……被っちゃおっか?」

 いそいそと被り始める2人。被り心地はどれも大して変わらない。違うことと言えば、ボリュームだけだろう。2千円物は、揉めば揉むほどモワモワと広がり続ける。かたや安物は、どこか心もとない。レインボーであるが、1色ごとの毛数は少ない。揉んだ分だけ、ほぐれてしまう。だが、びっちゃん達はそれに気づいていない。

 びっちゃん「写メ撮りたい!」
さっちゃん「撮りたい!」

 すっかりテンションが上がってしまった2人は、寝っ転がってみたり、角度を変えてみたり、何枚も何枚も写真を撮り続ける。20分ほど経った頃には、じんわりと汗をかいていた。写真撮影も終え、満足した2人は、身だしなみを整え、再び待機の姿勢へ。

 びっちゃん「もうすぐ着くってー」
 さっちゃん「そうか。どれ被るー?」
 びっちゃん「安いのでいいよ。みっちゃん頑張ってくれたから、大きいの被らせよ」

 そこへ遅れてきた2人が到着した。クラッカーを鳴らし、歌を歌う。むっちゃんは、大変喜んだ。
みっちゃん「みんな被ってる状態で写真撮ろう!!」

 店員を呼び、4人並んで記念撮影。
びっちゃん「ほんと成功して良かった!!」


Scene 2

 僕がこの店でアルバイトを初めて3カ月。店の雰囲気にも仕事にも慣れてきた。今日の予約は、2名様コースと、8名の団体様と、誕生日サプライズが1組か。ケーキを出すタイミングをしっかり見計らないといけないな。

 どうやら先に2人だけ到着したみたいだ。スーツを着ている。就活生かな。ボソボソと話し声が聞こえた。どうやら何かを被るらしい。サプライズ用の個室はカーテンで区切られているため、中の様子がわからない。そこへ、水を出しに行った先輩が戻ってきた。

 「どうかしたんですか?」
 「いや、あの部屋は危険だ…。失礼のないよう気をつけろよ」

 先輩は肩を震わせている。どういう意味だろう。

 それから残りの2人も到着し、どうやらサプライズは大成功の様子。そろそろケーキを運ぼうか。「誕生日おめでとう」と書かれたプレートを乗せたケーキを持って、個室へと向かう。

 「失礼しま……す」

 言葉が出なかった。そこにはスーツでアフロという実に珍妙な格好をした4人の女性。ぐっと堪え、ケーキを置いた。写真を頼まれたので、もちろん笑顔で了承。

 「じゃあ、撮りますよー。最高の笑顔でお願いします!」

 レンズをのぞき込み、ピントを合わせる。緑色、レインボー、主役用ハット、小さなレインボー。こっちまで嬉しくなってくるような、いい顔をしている。だが、僕は、気づいてしまった。小さなアフロは毛が抜けてしまい、円形ハゲがそこら中にできているということに。「成功して良かった!」という声に、たまらず吹き出した。

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