「出会いはチャットルームで」
(結末がビックリするのだけれど、あたたかい気持ちになれる。というつもりで書きました。)
【K.A.】
ある暑い夏の日のことだった。ユウキはその日も夏休みなのにも関わらず、退屈に過ごしていた。暑いから外に出たくないし、家の中ですることもない。昔はよく、家族4人で遊びに行ったものだが、自然とそんな機会もなくなってしまった。両親は共働きだし、妹に至っては会話すら減ってしまい、週に一言二言話せばいい方だ。
「そうだ、久々にチャットでもするか。」ユウキは中学生の時、妹に教わったチャットのことを思い出し、自分のパソコンを立ち上げてチャットを始めた。ハンドルネームは『昆虫物語 みなしごハッチ』からとってhacchiにした。
hacchiさんが入室しました。
hacchi:こん。
ゆーゆ:こん。
hacchi:はじめまして。
ゆーゆ:はじめまして! よろしくね。
hacchi:なんさい? オレ17。
ゆーゆ:わたしも17だよ。
hacchi:高2?
ゆーゆ:そ~。
hacchi:おー、タメか!
ゆーゆ:誕生日いつ? わたし6月5日だよ。
hacchi:え! まじで。誕生日いっしょなんだけど!
ゆーゆ:ほんとに? こんなことってあるんだね、すごーい。
と始まったチャット。彼らの会話は非常に盛り上がった。話しているうちに、血液型も同じ、住んでいる県も同じということがわかった。彼らの会話は明け方まで続いた。
hacchi:あー、そろそろ寝ないとな。
ゆーゆ:そうだね、もう朝の6時だしね。
hacchi:今日はすっごく楽しかったよ。また会えるかな?
ゆーゆ:会えるよ、今日もなんにもないし。また夜にくる。
hacchi:わかった、オレもくるよ! じゃあおやすみ。
ゆーゆ:おやすみ~。
hacchiさんが退室しました。
その日の夜も同じように二人はチャットルームで話した。
hacchi:そういえばさ、趣味とかってある?
ゆーゆ:う~ん、音楽が好きかな! ライブとかよく行くよ。
hacchi:そうなんだ、誰のライブ?
ゆーゆ:わたしずっとロックスミスのファンで、ライブほとんど行ってる。
hacchi:おお! オレもすごいファンなんだけど!
ゆーゆ:そうなの? わたしクローズっていう曲が好き!
hacchi:いい曲だよねー! おれもその曲大好き!
お互いロックスミスというバンドの熱狂的なファンで、再び明け方まで語りあった。それから半年間にわたり、彼らの交流は続き、お互いの悩みを相談し合う仲にまで発展していた。そんなある日、ユウキはゆーゆに自分の家族のことについて相談した。
hacchi:高校生にもなると家族関係が薄くなっちゃってさ。
ゆーゆ:確かにそうかも。
なに話せばいいかわかんないし。
hacchi:オレ妹いるんだけど、全然仲良くないんだよ。
ゆーゆ:そうなんだ。わたしもお兄ちゃんいるけど全然話さないよ。
hacchi:話しかけづらいんだよなあ、話しかけても無視されそうだし。
ゆーゆ:うーん、でも妹さんも話したがってるかもよ?
ちょっとだけでも話しかけてみたら?
hacchi:そうだな、頑張ってみるよ!
その夜、ユウキは思いきって妹に話しかけた。「なあ、たまにはちゃんとご飯食べた方がいいぞ。」ユウカはユウキが久々に話しかけてきたので、驚きながらも「う、うん・・・」とだけ答えた。
ユウキは、いつもゆーゆが自分の悩みに対して真剣にアドバイスをくれるので、密かに恋心を抱いていた。お互いが同じ県内に住んでいるということがわかっていたので、会いたいと思うようになった。
hacchi:今度三重でロックスミスのライブあるでしょ。一緒に行かない?
ゆーゆ:うん! 行きたい!
hacchi:オレ、チャットで知り合った人と初めて会うんだけど。
ゆーゆ:わたしも。なにかお互いわかりやすい物持ってたらわかるんじゃない?
hacchi:そうだな。うーん。バラの花とかは?
ゆーゆ:ちょっと恥ずかしいけど、わかりやすそうだね。
hacchi:お互いに赤いバラの花持っとこうぜ!
ゆーゆ:わかった~。
じゃあ8月15日に公民館の前でね!
ロックスミスのコンサート当日。ユウキは初めての経験にドキドキしながら、真っ赤なバラの花を持って公民館へと向かった。すると、同じくバラの花を持った女の子が待っていた。胸を高鳴らせながら近づいていくと、彼は唖然とした。
「え、ユウカ・・・? もしかして、ゆーゆだったのか・・・?」
「え、じゃあお兄ちゃん、hacchi(ハッチ)だったの?」
そうなのだ。ユウキとユウカは双子の兄妹。だから共通点が多かったのだ。生年月日も同じ。必然的に干支も星座も同じ。そして血液型も同じ。
ユウキは自分の妹に恋をしていたのかと落胆した。しかし、同時に妹の色んなことがチャットでの会話でわかり、以前よりも確実にお互いの仲が深まっていた。二人とも驚いた顔で、お互いの顔を見合わせていたが、次第に表情が緩み笑顔になった。そして自然に二人は仲良くロックスミスの話で盛り上がりながらコンサートへ向かった。