「メディアコミュニケーション演習 物語」

【Y.K.】

 人を雨・日差しから守る事が、自分の使命だった。そのために自分は生産されたのだ。「まもること」しか知らなかった自分は「捨てられる」ことを想像したことがなかった。

 自分が生まれたのは、今から一年前。京都のある工場で生まれた。骨組みだけだった自分は工場を出て行く友達のように綺麗な服を早く着せて欲しいと思っていた。工場は京都に位置しているだけに和柄な服が多かった。向かいの工場には、洋風な服を着せてもらっている子もいた。一体、自分はどんな服を着せてもらえるのか期待に胸を膨らませていた。服に限らず、骨組みの数も、8本、16本、特別生産してもらっている友達は24本も骨組みがあった。自分はまだ、持ち手のみだ。「傘」とは呼べる物にはなっていない。外の世界はどんなに輝いているのだろうか。どんな人に必要とされるのだろうか。

 自分はどこに行くのだろうとずっと思っていた。初めて店頭に置かれたのは梅雨の時期のコンビニの玄関。捨てられたのもコンビニの傘立てだった。まさか、コンビニの傘立てに置かれっぱなしになるとは思っていなかった。なぜ、必要とされないのだろう。あくる日も、あくる日もコンビニの前の傘立てにいる。忙しそうにコンビニに駆け込む人を見る毎日に飽きていた。必要とされるときは来るのか。

 自分は雨上がりが嫌いだった。でも最も嫌いなのは虹だった。雨が上がって虹が出ると、必ずどこかに忘れられるからだ。なぜ必要とされないのだろうかと何回も考えた。答えは1つ。「ビニール傘だからだ。そして折りたたみ傘でないかだ。」コンビニの傘立てから店を出て行く人を眺めていると、大切そうにカバンから折りたたみの傘を出して雨の中を歩く人がいた。「羨ましいな」と思ったとき、自分は男子高校生に乱暴に選ばれた。「違う世界に行くことができるのか。次はどんな世界だろうと思った。」でも、すぐに嫌いな雨上がりがきた。途中、公園のベンチに放り出された。ほんの少しだったけど久しぶりの外の世界は楽しかった。それよりも、自分が一瞬でも必要とされている事が嬉しかった。

 色々な世界を見ることはできたけれど、長く必要とされたことはない。「もっと必要とされたいな。」と思っていた晴れの日、大きなトラックが自分を迎えに来てくれた。トラックのお兄さんは晴れの日なのにどうして自分を拾ってくれるのかだろうか。トラックに揺れられどこかへ連れて行かれた。そこは、見覚えのないところだったでも、なぜだろう大きな家だけど、人がいない。ふと前を見ると、どこかで見覚えのある顔が見えた。運ばれていくうちに、自分と同じ傘が山積みにされている。どうしたのだろう。悲しい空気に包まれた家だと思った。同時に、「自分は、捨てられたのだ。もう、誰にも必要とされないのだ」とも。傘は燃えないゴミ。捨てられることを捨てられて知った。

総評(ショートストーリー)/後期へ閉じる

Copyright(C)2012 Kobe College. All Rights Reserved.