「不器用女子のつぶやき」
【T.E.】
がたん、ごとん。電車に揺られながら、私は猫背にうつむいてツイッターをしている。大学生になって知り合いが増えた。ツイッター上で行われている、人間模様を眺めながら私は観察する。首と肩の間がだるくなって、ふっと顔を上げてみる。
足を広げてひじを片足に乗せてるもんだから上半身が斜めになって、なんだか変な姿勢になっているサラリーマン、上着やマフラーで着込んでいるのに丈の短いスカートをはいて足の寒そうなお姉さん、私と違ってリアル充実してますって感じのおしゃれな女子大学生・・・。車内にいるみーんなみーんなスマホを触っている。
あぁ、みんなうつむいちゃって、さびしい世界だ、日本は。
こうやっていつも世の中を斜めに見て、たそがれちゃって私もばかみたいだ。
はぁ・・・
もやもやした私の心をさらに憂鬱とさせるように、空もどんより曇っている。
わかってはいるのだ。私は根暗で無愛想で変な意地張ってて、自分に自信がないから周りが羨ましくなって難癖つけるのだ。
今日は軽音サークルのスタジオ練習。私は先輩に借りたキーボードを背負って、人ごみをすりぬけながらスタジオへと向かう。
ちなみにバンドマンは嫌いだ。音楽もピアノも好きだけど、バンドとなるとメンバー内の連絡が密に必要で。でも、バンドマンってだいたい時間にルーズな人たちばっかりだし、要領の悪い私はスタジオ練習が深夜になっちゃってもうまく断れなくて、親に怒られて、結局迎えに来てもらって、それがなんだかかっこ悪くて。
そんなわけなのにこのサークルに入ったのは、ちょっと自分でも認めたくないのだが、ひらちゃん先輩に憧れているからだ。
「お、みちるちゃんおはよー!」
「あ、お、おはようございます・・・。」
大学生になってからどうにも人と話すときに歯切れが悪くなってしまう。
「あ、」とか「えー、」とか「ま、まぁ・・・」とか。たぶん、大学生になって初っ端からうまく大学デビューできなかったことを、引きづってるんじゃないかと思ってる。
そんなことを考えながらひらちゃん先輩に教えてもらったように、アンプにコードをつなぎ合わせてキーボードの準備をする。
ひらちゃん先輩は、ひとつ上の大学2年生だ。新歓のとき、初対面の人と上手く絡む方法なんて話をして緊張をほぐしてくれた。こんなド直球にコミュニケーション対策の話題をもちかけてしまうほど、私は一人で浮いていたのだろう。
そんなひらちゃん先輩の持ち前の明るさに引っ張られるように、気が付いたら入部して、バンドを組んで、キーボードは持っていなかったので先輩から借りて、今に至る。
このキーボードがある限り、先輩がそばにいてくれるような気がして、不安じゃなくなるのだ。
その夜も私はツイッターを眺めていた。サークルの同い年の女の子が先輩と仲良さそうにやりとりしているのを見ると、いいなぁって思う。私にはやっぱりそんな芸当はできないや。できないできない。あー、ご飯食べに行く約束してる。いいなぁ・・・。
ふと、ドキっとするような書き込みを見た。
ひら けんじさんと飲み行ってた。ねむい。(2013年12月20日 23:30)
リナ @hirachaaan ひらちゃんせんぱーい! 前に話してたキーボードですけど、クリスマスライブ終わったらいただいてもいいですか? ( 2013年12月20日 23:33 )
ひら @rina_oxo おお、ええよー♪ 今みちるちゃんに貸してるから、また聞いたってなー(^o^)/ (2013年12月20日 23:40)
・・・どういうことだろう。私は確かにひらちゃん先輩からキーボードを借りてるけど、リナは借りるんじゃなくてもらうの?
胸がざわざわして、でも私には傍観することしかできなかった。
クリスマスライブ当日、少し失敗はあったものの、ひらちゃん先輩が盛り上げてくれて、なんとか楽しく終了した。
その次の日、早速リナは私にラインを送ってきた。
やっほー★ みちるちゃん今ひらちゃん先輩のキーボ借りてるやんなぁ??
あれうちがもらっていいことになったから、今度の集会に持ってきてくれへん~?
(2013年12月24日 20;08)
ああ、なんてしたたかな女なんだろう。私にはこのときリナが怖くて怖くて、何かおかしいと思いながらも、またキーボ使わないときは貸してくれるよね、なんて浅はかな希望を抱いて、承諾してしまった。
集会の日、私はばか正直にキーボを背負っていつもの広場に向かっていた。
ひらちゃん先輩の、隣で楽しそうにしゃべっているのは ---- リナだ。
「ちょ、もう先輩、勘弁してくださいよ~! あははは!」
「えー?! だってリナちゃんが先に言ったんやで~?!」
なんだか急にひらちゃん先輩が、やっぱりあのだらしないバンドマン達と同類に見え、あの笑顔も、薄っぺらいものに感じた。
疎外感、羨望、絶望・・・いろんな感情が渦巻いているのに、私は冷静に自分を客観視しようとしていた。また、心のどこかで、もうどうでもいいやって諦めてもいた。
私は精一杯の蔑むような目でリナを見て言った。
「リナ、これ、キーボ。」
「あ、みちるちゃん、ありがとー!!」
ああ、渡してしまった。リナなんかより私のほうがこのキーボを大切に思っていたのに。でも、もう先輩に対しても憧れより呆れるような気持ちのほうが大きかった。
・・・世の中なんてそんなもんなのだ。強い人が得をし、弱い人はただ黙って従うしかない。それでも、私は私だ。私の好きなものや価値観には、誰にも侵入させてやらない。
そして、最後の強がりを私は文字にする。
みちる ため息は口から出ます。そのため息を鼻から出すと、なんだか落ち着いてすっきりします。今日からため息さえも良いものにしてやります。(2013年12月27日 23:30)
明日は、お母さんが抽選で当ててくれたコブクロのライブだ!
ライブに行けること以上に、私にもいいことは巡ってくるんだってことが嬉しかった。
雲がゆったりと流れていて、清々しかったので、いつになく素直に上を向いてがんばろって思えた。今度こそこの気持ちを忘れませんように。明日は楽しむぞ。