英米文学文化分野

1. マーク・トウェイン 柴田元幸訳(2017)『ハックルベリー・フィンの冒けん』研究社

アメリカの心臓部を流れるミシシッピー河流域を舞台にした冒険物語です。飲んだくれのお父さんから逃げ出した主人公のハックは、同じく逃亡中だった黒人奴隷のジムと共にいかだで大河を下っていき、様々な出来事に巻き込まれます。人種、貧困などのアメリカ社会の問題から、自我や自由、人間の美しさや醜さなどの普遍的な問題までが、フロンティアの息吹に満ちたアメリカの大自然を舞台に展開されます。『トム・ソーヤーの冒険』の続編ですが、独立して読むことも可能。英語の綴りがうまく書けないハックルベリーの言葉を、柴田元幸氏がどう日本語に訳したのか、新訳で読んでみてください。

2. 柴田元幸編(2013)『アメリカン・マスターピース(古典編)』スウィッチパブリッシング

アメリカ文学は短編小説の宝庫です。メルヴィル、ホーソーン、ポー、ヘミングウェイ、フォークナーなどアメリカを代表する作家たちは、限られた語数の中で自己を、社会を、世界を、そして夢を表現する技術を磨きました。この本では、19世紀前半から20世紀初頭までのアメリカ短編の魅力をすぐれた翻訳で少しずつ味わうことができます。姉妹書である「準古典編」「現代編」と併せて、アメリカ文学を知るために最適な短編選集です。

3. George Orwell, (2013). Nineteen Eighty-Four , Penguin Modern Classics
ジョージ・オーウェル 高橋和久訳(2009, 2018)『一九八四年』ハヤカワepi文庫

『一九八四年』は、イギリスの作家、ジョージ・オーウェルのディストピア(=反ユートピア)近未来小説です。「真理省」という部署で政府にとって都合のよいように新聞記事を書き換える仕事をしている主人公ウィンストンが暮らす「オセアニア」は、発達を遂げた種々のテクノロジーによって、国民を、その心の中までをも、徹底的に、監視・統制する完璧な全体主義社会国家です。あることがきっかけとなって、こうした政府のありように不満を募らせていく主人公はやがて「反政府地下運動」に身を投じます。この作品を読むと驚かされるのは、その後のウィンストンを待ち受けるできごとだけではありません。描かれているオセアニアの全体主義の恐怖の一つ一つが、どれも世界の今、いたるところで生じている問題そのもの、と感じられることです。この作品が21世紀以降ますます多くの読者を引きつけているのもこのためでしょう。今日の世界に迫る脅威の真相について考えてみたいという方は、ぜひこの小説を手に取って読んでみてください。

4. William Shakespeare, (2008). Romeo and Juliet , Oxford School Shakespeare.
ウィリアム・シェイクスピア 松岡和子訳(2000) 『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア全集2)ちくま文庫

ロミオと14歳の誕生日を目前にした純粋で情熱的なジュリエットは、出会いからわずか6日間で、恋に落ち、そして命を落とします。「名前に何があるの?バラと呼ばれる花を / 別の名で呼んでも、甘い香りに変わりはない。」「ロミオ、名前を捨てて。 / あなたの体のどこでもないその名の代わりに / 私のすべてを受け取って」{松岡訳}。二人の魂を強く繋ぐことで、周りの大人たちからの言葉に立ち向かおうとするロミオとジュリエットの絶妙な言葉のやりとりのなかに、6日間の悲劇の原因を読み解く楽しさを味わってほしいです。本学の「シェイクスピア・ガーデン」(https://www.kobe-c.ac.jp/garden/rose/)では、5月に「スウィート・ジュリエット」という花名をもつバラが咲きます。

5. 平井正穂編(1993, 2013)『イギリス名詩選』、亀井俊介・川本皓嗣編(1993, 2013)『アメリカ名詩選』、ともに岩波文庫

『イギリス名詩選』には、ルネサンス期のシェイクスピアから20世紀のT. S. エリオットまで、計66名の代表的詩人の100作品が、左ページに原文、右ページに日本語訳という形で載せられています。同様に『アメリカ名詩選』には、17、8世紀の植民地時代から20世紀まで、ポー、ホイットマン、ディキンソン、パウンドを含む、45名の詩人から100作品が収録されています。簡潔な詩人紹介に語彙説明もあり、名詩のリズムと豊かなイメージに彩られた多様なメッセージには、心に染み入るものが必ず見つかります。阿部公彦『英詩のわかり方』(研究社)は、更に英詩を楽しみたい方への推薦図書です。

言語コミュニケーション分野

1. David Crystal (2003). English as a Global Language, 2nd Edition. Cambridge University Press

英語はグローバル(世界)言語です。その理由として、英語は影響力の強い国の第一言語であり、他の言語より世界中で第二言語または外国語として教えられていること、有数の国際機関や貿易における最も大事な共通語であることなどがあげられるでしょう。本書は、なぜ英語が世界で最も優勢な言語の地位にたどり着いたか、現在英語がどのように使われてこの地位を保っているかなどのテーマを扱っています。英語の歴史、そして英語の現状についてもっと知りたい人にお勧めです。

2. 川原繁人『岩波科学ライブラリー244:音とことばのふしぎな世界』岩波書店

生活に身近な例をとりあげ、ことばの音声の行動学・物理学・心理学的特質を探求する音声学という分野を紹介する本です。なぜ「ゴジラ」は「コシラ」ではなく濁音が必要なのか、などの音の印象の話からはじまり、五十音図の裏にある音に関する直感を探る、日本人の英語に対するコンプレックスのうち、発音に関する部分は何から来ているのかを発音、音そのものの特徴、知覚から追求するなど、多岐にわたる逸話が紹介されています。ことばの発音に素朴に興味を持っている人には絶好の入門書です。

3. 酒井邦嘉 (2002) 『言語の脳科学:脳はどのようにことばを生みだすか』中央公論新社

本書は人間に特有の言語に関する謎を取り上げ、どのような研究アプローチが取られてきたかを紹介しています。言語の研究を科学の一分野と位置づけ、言語獲得、手話、人工知能など幅広いテーマについて議論しています。言語は日常生活で何気なく使っている身近なものですが、言語研究の奥深さを感じることができる一冊です。言語学や脳科学の基本的な専門用語が登場しますが、説明が加えられ、門外漢にも読める配慮がされています。各章はある程度独立しているため、興味のある章だけを読んでも良いでしょう。

4. 白井恭弘(2008)『外国語学習の科学-第二言語習得論とは何か』岩波書店

なぜ母語習得(第一言語習得)は難なく出来るのに、外国語習得(第二言語習得)となるとそうはいかないのでしょうか? 適性、動機、学習開始年齢、性格、環境、性差-何が影響しているのでしょうか? 本書では、第二言語習得のメカニズムを最近の研究とともに考察し、また、それに基づいた効果的な外国語学習法や成功する学習者の特徴をも紹介しています。専門的な重要語句には説明も加えられており、学習者にとっても読み易いでしょう。この本を手始めに外国語学習・教育の向上について考えることが出来るでしょう。

5. ダニエル・ジル著、田辺希久子・中村昌弘・松縄順子訳(2012)『通訳翻訳訓練―― 基本的概念とモデル』みすず書房

世界中の通訳・翻訳指導者、研究者、学習者に支持されてきた、この分野の泰斗・ダニエル・ジルによる名著。通訳・翻訳研究の最新研究動向を盛り込んだ改訂版が邦訳されたことでより深い理解が可能になり、日本における通訳・翻訳研究の基本文献のひとつとなっています。「努力モデル」や「綱渡り仮説」など、通訳・翻訳で出合うさまざまな問題の理解と解決法を提供する汎用性の高い優れた理論的解説書です。

グローバル・スタディーズ分野

1. Benedict Anderson (1991). Imagined Communities 『想像の共同体』, Verso

This is a classic book that explores the roots of nationalism based on community identity. Anderson argues that the sense of community expanded to a national level in the form of national identity is only an “imagined” one. Different from when in small, local communities with day-to-day interactions, individuals in countries and nation-states will probably never meet or see the majority of the “community” members. Despite that, nationalism came to shape the world for centuries. This classic in Sociology proves to be a source of reflection in many areas including International Relations and Economics, in our days of increasing “virtual communities” and “online nationalism.”

ベネディクト・アンダーソン(1991)『想像の共同体』Verso出版社

コミュニティ属性に依拠するナショナリズムを解説する社会学において定番の書籍。アンダーソンは一国民としてのアイデンティティに発展するコミュニティ属性の意識はあくまでも想像上の存在であると主張します。小さなローカルなコミュニティのように日々顔を合わせることなく、同じ「国」または「国民国家」に住む個人は決して他の個人と会う・話すことはありません。にもかかわらず、国民国家から生まれる意識がナショナリズムという現象として、長年世界を形づけてきました。本書は国際関係や経済学等、多岐にわたる分野においても有益な考察を与え、「バーチャルコミュニティ」や「オンライン・ナショナリズム」といった現代社会における現象の分析にも役に立つ一冊です。

2. James Womack, Daniel T. Jones, and Daniel Roos (2007). The Machine that changed the world 『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える』, Free Press

This is a classic book in business management that shows how the Toyota Production System transformed Japanese car companies into major players in the world thanks to the increase in efficiency. Later, this system came to be known as the Lean Production System and was adopted by manufacturing sectors all over the world. This book shows how the culture of innovation combined with the Japanese mindset created a new way of doing things. And that experience may inspire young generations of Japanese who have lived their whole lives in economic recession.

ジェームズ・P. ウォマック、ダニエル・T. ジョーンズ、ダニエル ルース(2007)『リーン生産方式が、世界の自動車産業をこう変える』Free Press出版社

日本の自動車産業全体の生産性を劇的に上昇させた要因であるトヨタ生産方式が、いかにして日本の自動車メーカーをグローバルプレイヤーにしたのかを説明する、ビジネス・マネジメントの分野においての定番の一冊。トヨタ生産方式は、後々「リーン生産方式」として知られるようになり、世界中のあらゆる産業で採用されるようになりました。日本的な考え方とイノベーション文化を合わせた結果、どのように日本発の新しいモノづくりのモデルが生まれたのかを紹介する本著書は、生まれてから不況の日本しか経験していない若い世代の日本人にきっとインスピレーションとなるでしょう。

3. George Orwell (2013). Animal Farm『動物農場』, Penguin Books

Published in 1946, Animal Farm is both an engaging story and a political allegory. When the cruelly treated animals of Manor Farm overthrow their wicked human master and take over management of the farm they are full of enthusiasm. Their motto is “All animals are equal.” Before long, however, the pigs take control of the farm and become just as bad as the humans they have replaced. This is one of the most important, and most effective, criticisms of Soviet era Communism and of its distortion of socialist ideals.

ジョージ・オーウェル(1945)『動物農場』Penguin Books出版社

1946年出版のこの著書は、強い政治のメッセージ性を持つ物語であり読者を引き付ける寓話でもあります。人間にひどい扱いをされるある農場の動物たちが、飲んだくれの農場主を追い出し、農場を自分たちのものにします。彼らのモットーは「動物たちはみんな平等である」。しかし、間もなくブタたちが農場を乗っ取り、以前の農場主のように他の動物たちにひどい扱いをするようになってしまいます。ソビエト時代の社会主義が社会主義の理想からかけ離れたものになったことに対する、もっとも痛烈な批判を寓話的に描かれた物語です。

4. Anne Allison (2006). Millennial Monsters: Japanese Toys and the Global Imagination 『菊とポケモンーグローバル化する日本の文化力ー』, California UP

What is the “typical” Japanese Culture? Sushi? Kimono? Or, Toyota? Sony? The most popular materials of Made-in-Japan in these days might be Pokémon, Ghibli animation, or Hello Kitty! Those have been appearing “stateless”: being nowhere and everywhere. The globalization of Japanese products, “cool-Japan,” has been led by former characters including Godzilla, Atom boy, Power-Rangers, Sailor Moon, or Walkman and Tamagotchi, which have reflected their imagination, gender norms, and transformation of their lifestyles in postwar Japan. The author, Anne Allison, an American anthropologist, traces the cool-Japan to examine Japanese Society.

アリスン,アン(著)、実川元子(訳) 2010『菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力』新曜社。

世界を駆け抜けるMade in Japanの代表格は、寿司や着物といったいわゆる日本の「伝統文化」でも、トヨタやソニーでもない。むしろ、ポケモン、ジブリ、ハローキティーといった、一見「無国籍」な、どこにでもいそうでどこにもいないキャラクターたちだ。そんなCool Japanのルーツを辿ると、ゴジラや鉄腕アトム、パワーレンジャーやセーラームーン、ウォークマン、たまごっち、という、戦後日本の想像力やジェンダー思想、生活スタイルの変化を反映させながら生まれてきたものたちに出会える。アメリカの文化人類学者アン・アリソンが、日米関係をも視野に入れながら、そうしたクールジャパンの航跡から現代日本社会を論じた「民族誌」。身近なモノの奥の深さと外部者の客観的視点から、日本社会を考えることができるオススメの1冊。

5. Jared Diamond (1997). Guns Germs and Steel: The Fates of Human Societies『銃・病原菌・鉄』, W.W. Norton & Co.

In this highly-influential book Diamond examines the conflicts that have shaped global history, and argues that differences in levels of technological development and power arose from the effects of environmental variations and not from any inherent racial differences. Diamond suggests that natural advantages arose from variations in crop availability, the presence of diseases, and the ability to domesticate animals. He argues that these factors were more important than intelligence or ingenuity to explain why Europeans were able to dominate other societies. Diamond's insistence on a scientific understanding of historical phenomena provides a great starting point to develop a better understanding of international development and geopolitics.

ジャレド・ダイアモンド(1999)『銃・病原菌・鉄』Norton, W. W. & Company出版社

多くの研究者に大きな影響を与えたこの本の筆者は、地球上で起こってきた歴史的闘争を調べていくと、技術の発達や軍事力のレベルの違いは本来の人種差によるものではなく、地形や動植物相を含む「環境」の相違であると説いています。それは、栽培可能な植物に恵まれていたこと、伝染病に対する免疫力を保持していたこと、動物を家畜化できる手段があったこと等による環境の有利性が、ヨーロッパ人が他の社会を支配できた大きな理由であり、知性や独創性よりもさらに大きな要因であったのです。 著者の歴史的現象への科学的側面からの理解は、国際開発や地政学を学ぶに当たってよりよい理解を得る最適な出発点となるでしょう。

宗教学分野

1. マルティン・ルター(1955)『キリスト者の自由・聖書への序言』(新訳)岩波文庫

2017年に500周年を迎える「宗教改革」の理念的支柱となった名著。序文と30項目の叙述からなる小さな本だが、文化史的にも思想史的にも新たなページを開くという大きな仕事をなし遂げた。表題に「キリスト者」と書かれているが、人間全体の喜ばしい在り方を論じていると言っても過言ではない。「自由」を単なる放縦や気儘(きまま)の対局に置き、利益に引きずられたり強いられることではない、自発的な善行へと向かう、能動的生き方を提示した。この「自由」が、神戸女学院の建学の精神の出発点となったことも心にとめたい。

2. 大貫隆(2010)『聖書の読み方』岩波文庫

著者は東京大学名誉教授で、新約聖書学の専門家。本書で大貫氏は、世界のベストセラーといわれる『聖書』がキリスト教信仰の基準である「正典」として、また人類が継承してきた「古典」として、どのような性格をもっているか、またいかなる世界観の中で書かれたか、当事者が何に対して骨折っているかなど、この書を理解するための輪郭を述べています。著者の「即答を求めない。真の経験は遅れてやってくる」という提案は、諸分野に応用可能な姿勢です。

3. H.S.クシュナー(2008)『なぜ私だけが苦しむのか 現代のヨブ記』(斉藤武訳)岩波現代文庫

本書は米国でベストセラーとなり、10以上の言語に翻訳されています。著者はニューヨークで活動するユダヤ教のラビ(信仰の指導者)であり、子息が「早老症」(プロゲリア)という難病を患い、わずか14歳で夭逝した経験から、多くの研究者、哲学者の見解を引用、検討し、信仰や神について問う意味を語っています。彼は、与えられる答えよりも、苦難から出発する応答の重要性を述べています。

4. 関根清三(2005)『旧約聖書の思想–24の断章』講談社学術文庫

岩波書店から1998年に刊行された同名の書の文庫版です。本書は、聖書テクストの地平と解釈者の地平の対話を目指す書と言えるでしょう。著者は、各章で取りあげる旧約聖書からの断章を、テクストの文脈や聖書学の研究史を踏まえつつ、思想史やキリスト教の歴史、さらには現代の問題意識との対話を通して解釈することを試みます。「易しい」文書ではありませんが、著者の考察の道程をたどる中で、解釈という営みと聖書の言葉の奥深さを体験することのできる書であると思います。

5. 山浦玄嗣(2011)『イエスの言葉 ケセン語訳』文芸新書

著者は病院に勤務する医師ですが、気仙地方(岩手県)の方言をケセン語と呼んで研究をしています。新約聖書のギリシア語本文を翻訳しながら『ケセン語訳新約聖書』(福音書)を完成し、さらに日本各地の方言からなる聖書も作成しました。単なる話題性にとどまらず、原典から丁寧に訳されたことによってイエスの言葉の響きに深みを加えています。翻訳という作業ではいかに原語に相応しい言葉を用いることができるかが重要となります。地域の人が実感できる言葉に訳したいという著者の熱意が伝わってきます。

欧米の文化と歴史分野

1. トマス・ブルフィンチ(1978)『ギリシア・ローマ神話』岩波文庫

ヨーロッパの文化には、二つの源流があります。一つは、ユダヤ教・キリスト教の伝統で、これはヘブライズムと呼ばれています。もう一つは、古代ギリシアの伝統で、これはヘレニズムと呼ばれています。前者を代表している本が『聖書』だとすれば、後者を代表している本が『ギリシア・ローマ神話』です。そのため、ヨーロッパについて知りたいと思う人は、分野を問わず、『聖書』と共に『ギリシア・ローマ神話』をどうしても読んでおかなければなりません。どの話から始めてもかまいません。神々と英雄たちの世界にきっと引きこまれるはずです。

2. 川北稔(1996)『砂糖の世界史』岩波ジュニア新書

フランスのマカロンやベルギーのチョコレートなど、ヨーロッパのお菓子は日本でも人気があります。しかし、お菓子に欠かせない砂糖は、19世紀までヨーロッパでは生産することができませんでした。それにもかかわらず、なぜ砂糖を使ったお菓子の文化がヨーロッパで発達したのでしょうか。

『砂糖の世界史』は、砂糖という身近な食べ物の歴史をたどるなかで、ヨーロッパの文化が世界の他の地域との交流のなかで形成されていったことを教えてくれます。同時に、一見輝かしいヨーロッパの近代史が植民地建設など負の側面を持ち、現代世界のあり方にも大きな影響を及ぼしていることを気付かせてくれます。

3. 亀井俊介(1997~2000)『アメリカ文学史講義』〈1〉~〈3〉 南雲堂

文学はその国の文化を映す鏡です。私たちはアメリカ文学史を通じてアメリカという国の社会、歴史、思想、そして人々の感性に触れることができます。この書は時代を追って主要な作家の生い立ちや人となりを紹介しながらその代表作を解説しています。アメリカ文化・文学研究の第一人者である著者が、大学1、2年生向けに行った講義を話し言葉のまま収録していますので、アメリカ文学の名著を平明かつ味わい深い言葉で語った親しみやすい入門書であると同時に、より深くアメリカ文化を理解したい人への格好の手引きになっています。

4. 沼野充義編著(2012)『世界は文学でできている』光文社波文庫

ロシア文学者である編著者と5名のゲストが、「越境」「電子メディア」「Jブンガク」等をキーワードに、文学の現在を論じた対談集です。「日本文学」と「外国文学」、「古典文学」と「現代文学」といった枠組みを取り払い、世界の多様性が交錯し響きあう場としての「世界文学」の魅力を熱く語っています。欧米文化に焦点をあてた書物ではありませんが、外国文化・文学を学ぶ人にとっては、自らの立ち位置を考える手がかりとなってくれるはずです。各章末におかれた中高生向けの読書案内もぜひ参考にして下さい。

5. 廣野由美子(2005)『批評理論入門 『フランケンシュタイン』解剖講義』中公新書

小説を「読む力」を養うことは、文学研究にとどまらず、さまざま領域に応用できる汎用性の高い能力を身につけることです。「○○を読む」ことは人文、社会、自然科学の広い分野で必要な基礎的営みと言えます。小説技法と批評理論の入門書である本書は『フランケンシュタイン』という一冊の小説を、実に多様な方法で読み解くことで、スリリングな知的冒険を読者に味あわせてくれます。専門用語が出てきますが、けっして難しいことが書かれているわけではありません。まずは小説を読み、それから本書を手にしてください。

哲学・倫理学・美学分野

1. プラトン(1979)『国家』(上)(下)岩波文庫

プラトンの主著と目される書。「正義とは何か」という主題をめぐって国家と人間の類比を方法として用い、それぞれにおける正義が考察されます。その考察は政治哲学と倫理学のみならず、認識論や存在論、文芸批評にまで及びます。《善のイデア》を太陽に喩え、真理の認識とそれによる人間の解放について語る「太陽」「線分」「洞窟」の三つの比喩はあまりにも有名かつ重大なので、これを知らずして哲学を学んだとは言えないでしょう。他のプラトンの著作と同じように、専門用語はほとんど用いられず、読みやすく書かれています。

2. 今道友信(1987)『西洋哲学史』講談社学術文庫

哲学も学問である以上、学ぶことが必要です。そしてそれには哲学者たちの思考のうねりを自らたどることよりも優れた方法はありません。哲学史の入門書である本書は、古代ギリシアから現代に至る哲学史の中で最も重要と考えられる哲学者たちの思考がどのように論理的に展開しているかを、優れた哲学者・美学者の著者がたどりつつ、その次第を平易な話し言葉で語っています。著者の文章を読者として読み解いていくことで、歴史上の哲学者の思索を味わう入り口に立つことができるでしょう。

3. デカルト(1997)『方法序説』岩波文庫

近代哲学の先駆者として知られるデカルトは、「我思う、故に我あり cogito ergo sum」の言葉で知られています。これは思考することによってのみ自分の存在を勝ち取ることができるという、近代における人間の自立を説く力強い宣言なのです。『方法序説』は、デカルトが若い頃からの人生を回顧しつつ、自分がいかにして真なる方法に辿り着いたのかを述べた本です。考えることの重要さが、自分の人生経験に基づいた平明な文によって語られています。

4. ジャン=ジャック・ルソー(1962-1964)『エミール』岩波文庫

「自然に帰れ」の言葉で知られる十八世紀フランスで活躍した思想家、ジャン=ジャック・ルソーが著した教育論の古典が『エミール』です。けれどもその内容は教育学の範疇にとどまるものではありません。当時の貴族社会の教育習慣を批判し、人間の自然の性質に基づいた人間の育ち方を考えるルソーの思想には、自然とは何か、快い環境とはなにか、人間同士のコミュニケーションはどうあるべきかなど、哲学的な問題に対する興味深いアプローチがたくさん見受けられます。これは「ヴァーチュアル子育て」の哲学なのです。

5. ボードレール(1966)『パリの憂鬱』岩波文庫

十九世紀のパリは世界の首都でした。万国博覧会が開かれ、エッフェル塔が建築される・・・。ボードレールは世界都市パリの街角で群集のざわめきを聴き取りながら、片隅で暮らす貧民やいかがわしい人々を描写していきます。『パリの憂鬱』は、都市の情景の華やかさとその影に鋭いまなざしを投げかけた散文詩集です。ボードレールは、美とは急速に変化する近代的な生活と決して変わることない西洋の普遍的な性質との両方にあると言います。これは美についての近代的な基本概念と言えるでしょう。

社会福祉・子ども分野

1. 内田樹(2008)『街場の教育論』ミシマ社

本学の名誉教授である内田樹が、『教育とは何か』という問いに対してシンプルかつ平易にその本質を語る11講座。巷で喧伝される「教育の危機」、たとえば学力低下、教師の質の低下、大学設置基準の緩和と全入時代の到来、核家族化や少子・高齢化、大学の就職予備校化といった問題に、安易にビジネスのロジックを持ち込んで即効性ある解決を求めることを避け、教師生徒関係における「葛藤」や「離陸」を通じた「成熟」の重要性を説いています。教育は、「学ぶもの」にとって「教えるもの」がいかなる存在であるかという両者の関係性に収斂すると気づかせてくれる本書。本学での講義録がもとになっているので、大学での学びの雰囲気を味わいたい方にもおすすめです。

2. テューイ(1957)『学校と社会』岩波書店、講談社学術文庫

プラグマティズムを代表する思想家で教育理論家でもあったジョン・デューイ。彼がシカゴ大学に併設した実験学校で行った教育実践をもとに、執筆したのが本書です。変化する社会の動きに合わせ、次世代を生きる子どもたちを世に送り出すために学校が提供すべき学びは、教科書からの受け売りではなく「経験」であるとデューイは説きます。近年、脚光を浴びている課題解決学習やアクティブ・ラーニングとも思想的につながりうる、教育学の古典でありながら、「生きた学び」についての考えを深めてくれる一冊。

3. F.P.バイステック(2006)『ケースワークの原則─援助関係を形成する技法[新訳改訂版]』誠信書房

本書は、対人援助における信頼関係を構築するための技術を、7つの基本原則─「クライエントを個人として捉える」「クライエントの感情表現を大切にする」「援助者は自分の感情を自覚して吟味する」「受けとめる」「クライエントを一方的に非難しない」「クライエントの自己決定を促して尊重する」「秘密を保持して信頼感を醸成する」─として論じています。クライエントとの信頼関係は、援助関係の魂ともいえるものです。それを限られた時間のなかで意図的に形成していくための技法が、本書では平易な言葉で丁寧に説明されています。

4. 岡村重夫(1997)『社会福祉原論』全国社会福祉協議会

わが国における社会福祉学の基礎を作った岡村重夫の古典的名著です。「社会福祉とは何か」という問いに対して、社会福祉学における一般理論の体系を提示した「岡村理論」がまとめられています。ここでは、社会関係の主体的側面の実現が妨げられた生活者の生活困難に対するはたらきが“社会福祉”であるとされ、社会関係の不調和、社会関係の欠損、そして、社会制度の欠如を対象として社会福祉における固有の視点が明らかにされています。本著の内容は必ずしも易しいとはいえませんが、社会福祉を学ぶ学生には必読書であるといえるでしょう。

5. 糸賀一雄(1967)『福祉の思想』NHKブックス

障害者福祉における先駆的実践者である糸賀一雄の名著です。知的障害や重症心身障害のある子どもへの支援のあり方を通して、社会福祉に求められる基本的な考え方を提示しています。「『この子らに世の光を』あててやろうというあわれみの政策を求めているのではなく、この子らが自ら輝く素材そのものであるから、いよいよみがきをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。」という糸賀の言葉は、その考え方を伝える一節として有名です。社会福祉を学ぶ学生にも、そうでない学生にも読んでもらいたい一冊です。

社会学・メディア分野

1. 秋元律郎・石川晃弘・羽田新・袖井孝子(1990)『社会学入門〔新版〕』有斐閣新書

最初の30ページほどで「社会学はどういう学問か」について、歴史や言葉やものの見方などの視点から説明しています。それに続いて家族、地域、職場、社会変動、社会問題のテーマを取り上げ、社会学的知識と方法を応用する形でテーマごとに具体的な考察を試みています。これら個別のテーマの締めくくりとして、「社会学とその方法」の見出しで社会調査の方法の特徴を分かりやすく説明しています。新書版ですが、社会学の基礎知識と研究事例をひと通り盛り込んだオーソドックスな基本図書です。

2. 浅野智彦編(2010)『考える力が身につく社会学入門』中経出版

社会学は、研究対象である社会と文化の変動とともに変わりつつありますが、本書は2010年の時点に立って20世紀後半から21世紀初めまでの社会と文化の新しい変化を考察しています。「自分探しを強いる現代社会」、「人間関係は希薄化したのか」、「家族の個人化と少子高齢化」、「新しい働き方」、「流行はどのように生まれるのか」等々、まさに今の社会と人間の問題について社会学の新しい考え方や言葉を使って再検討しています。多数の図表を使いながら、分かりやすい文章で丁寧に概説しています。

3. 見田宗介(2006)『社会学入門―人間と社会の未来―』岩波新書

著者の見田宗介は社会学の理論と経験的研究の両面で日本の社会学の発展に貢献してきました。見田は長年の研究と調査の蓄積に基づき、標準的な入門書や概説書とは異なるスタイルで「複雑な現代社会と文化」について多様な角度から光を当て、「鏡の中の現代社会」、「近代社会の比較社会学」、「現代日本の感覚の歴史」、「愛の変容/自我の変容」、「現代世界の困難と課題」等々、ユニークな見出しを付けて論述してます。新書版ですが、魅力的で読みごたえのある文体で書きつづられた本です。

4. 吉見俊哉(2004)『メディア文化論-メディアを学ぶ人のための15話-』有斐閣

本書は、大学の15回の講義を聴講するという形式をとっています。「方法としてのメディア」「歴史としてのメディア」「実践としてのメディア」という3部構成によって、大きく3つの社会学的アプローチを学べるようになっています。講義形式ということで各章読み切りのため、どの章から読み進めても構いません。たとえば電話とラジオには深いつながりがあることを知ったり、学校や部活、バイト先の人間関係とメディアとのダイナミックな関わりに気づいたりすると、何気ない毎日が発見と不思議に満ちた世界に変わってくる。そんなヒントが満載の一冊です。

5. 野村一夫(1999)『社会学の作法・初級編:社会学的リテラシー構築のためのレッスン(改訂版)』文化書房博文社

本書は、初学者が社会学的な視座に立って「読み」「書き」「討論する」ためのノウハウをわかりやすく説いた書と言えます。学問知を構成する4つの要素を「知識」「思想」「技法」「作法」に分け、大学1年生〜2年生に向けて「学ぶ意欲が具体的な社会学的生活につながるように」語りかけています。書物や情報を精査し、渉猟するための方法が具体的に書かれているだけでなく、それに基づいて議論する場(ゼミ)を公共圏と位置づけ、それゆえに生ずる自由と責任についても言及されています。

日本語・日本文学分野

1. 小林ミナ(2007)『外国語として出会う日本語』岩波書店

普段私たちはそれほど深く考えることなく日本語を使いこなしています。しかし、私たちが使っている日本語の中にも英語などの授業で学んだようなことばに関する規則というものがあります。例えば、「切る」は「切って」、「走る」は「走って」なのに、どうして「着る」は「着って」、「食べる」は「食べって」にならないのでしょうか。本書では、日本語学習者の疑問や誤りを手がかりに、普段無意識のうちに使っている日本語を客観的に見つめ、日本人の頭の中にある「ことばのルール」をあぶり出します。

2. 野田尚史(1991)『はじめての人の日本語文法』くろしお出版

日本語の文法というと、難しい、堅苦しい、暗記ばかりさせられるというイメージがあるかもしれません。しかし、文法というのは、人々が書いたり、話したりしたものを観察して、見つけ出したことばに関する法則なので、日本語が分かる人にとっては日本語の文法を覚える必要はありません。本書では数多くの例について考えながら、日本語の文法を発見していきます。本書をきっかけにして、文法に対する考え方を理解し、日本語を文法的に分析する力を養ってください。

3. 谷知子(2017)『古典のすすめ』角川選書

日本人は、人生の折々に、何を感じ何を考え生きてきたのでしょうか。本書は、多くの著名な古典文学作品からさまざまな場面を切り出し提示する形で、この問題への手がかりを与えてくれます。生老病死、恋愛や結婚、旅等、テーマ毎に繰り出される数々の文章を読むことは、表現を味わう楽しさや、その作品全体への関心を喚起することにもつながるでしょう。知っている作品を読み直し、またこれまで知らなかった作品と出会う契機にしてください。豊かな古典文学の世界に触れてみましょう。

4. 十川信介(2008)『近代日本文学案内』岩波文庫別冊

近代化と文学表現は、どのように関わってきたのでしょうか。本書は、(1)時代の主流を形成してきた立身出世の欲望、(2)現実社会に飽きたらぬ、またそこからこぼれ落ちた人々が紡いだ別世界の欲望、(3)新たに登場した交通機関、通信手段と文学の関わり、という3つの切り口によって、文明開化から第二次大戦後までの日本文学作品を考察し、紹介したものです。ユニークな文学案内であるとともに、社会の変革が個人の生活に何をもたらすのかについての示唆も与えてくれます。

5. 前田愛(1993)『文学テクスト入門』ちくま学芸文庫

文学を読むというのはどのような行為でしょうか。文学テクストはあらすじを示しているだけのものではありません。書いていないことを読むという読み方もあります。私たちは何をどのように読んで、快楽を得ているのでしょう。江戸の小説から夏目漱石や村上春樹まで、さまざまなテクストを通して、書くことと語ることの関係、言葉と身体のつながりについて説き起こし、文学テクストの構造やそれを読み解く仕組みを明らかにしつつ、豊かで多様な読みのあり方が示されています。

日本・アジアの文化と歴史分野

1. 桃木至朗編著(2008)『海域アジア史研究入門』岩波書店

アジアの歴史について興味のある人にお薦めです。アジア各国それぞれの歴史を学ぶことも重要だと思います。しかし本書は、それを越えて、アジアの中でのつながりを重視した歴史が描かれています。各国をつなげるもの、それは海のネットワークです。本書では海からの視点を打ち出すことで、アジア全体を広くとらえていきます。常につながりを持ったアジアの歴史を見ることで、今後のアジアを考える手がかりとなるでしょう。

2. 網野善彦(2000)『「日本」とは何か』講談社

私たちは「日本」というものをある一定のイメージで見ていないでしょうか? 天皇がいて、海に隔てられた島国に「単一の民族」が住み、全国で稲作が行われている…など。それは歴史的にずっと継続してきたのでしょうか。日本中世史の研究者である著者は、その固定的な常識に対して真摯に向き合い、一つ一つの事象について私たちのイメージを突き崩していきます。多様な意識や価値観に満ちた「日本」の歴史像が、本書から明らかになります。

3. 鹿野政直(2002)『日本の近代思想』岩波書店

日本の近代はどのような経験を経てきたのでしょうか。開国後の外国との交流、明治維新、富国強兵、デモクラシー、敗戦、高度経済成長……。その中には、多くの人々の思想と行動がありました。本書はその近代日本の経験を、戦争・平和、民主主義といった大きな問題から、暮らしやいのちなど私たちに身近な問題まで、非常にやさしい言葉で、語っています。現在が歴史の積み重ねによって成り立っていることを実感するでしょう。

4. 義江明子(2004)『古代女性史への招待』吉川弘文館

古代の女性は、どのように生まれ、恋をし、子を育て、はたらき、それぞれの生涯を全うしていったのでしょうか?本書は、古代女性が、農作業・酒造りを指揮するリーダーや時にはあくどい高利貸しともなり、また男性とともに政治や祭祀の場に参加する姿を、分かりやすい言葉で鮮やかに描き出します。「遠い過去の女たちの生き方を探ることが、実は現代を生きる力になるのだ」という女性史研究の醍醐味をぜひ味わって下さい。

5. 吉田裕(2007)『アジア・太平洋戦争』岩波書店

日本は1931年から1945年まで、アジア・太平洋の諸地域で戦争を引き起こしました。なぜ戦争をしなければならなかったのでしょうか。その時の国内の状態はどのようなものであったのでしょうか。そして実際の戦場はどのような状況にあったのでしょうか。本書では、アジア・太平洋戦争の時の日本の姿が、史料を使いながら克明に描かれています。戦後の日本社会について考える上でも、読みたい/読まなければならない一冊です。

経済学・法学・国際関係論分野

1. カール・マルクス、資本論翻訳委員会訳(1982-1991)『資本論』新日本出版社

マルクスが心血を注いだ未完の大著です。資本主義の誕生・発展・死滅をつらぬく「近代社会の経済的運動法則を暴露することがこの著作の最終目的」です。そのために経済学、政治学、歴史学、法学など、あらゆる社会科学と論理学が動員されています。

「資本主義的生産様式が支配している諸社会の富は、『商品の巨大な集まり』として現われ、個々の商品はその富の要素形態として現われる。それゆえ、われわれの研究は、商品の分析から始まる」。この書き出しから、長大な物語が始まります。

2. 松井茂記、松宮孝明、曽野裕夫(2013)『はじめての法律学―HとJの物語〔第3版補訂版〕』有斐閣

はじめて法律学を学ぶ学生向けの入門書。大学生HとJが遭遇する「できごと」(学生Hは飲酒運転でJをはねてしまい、Jは植物人間になってしまう)を通して、具体的な物語の展開のなかで関連する法律(刑法、刑事訴訟法、民法、民事訴訟法、日本国憲法)の考え方を分かりやすく解説しています。私たちの生活にさまざまな法が関連していることがわかります。そして、それらの法律の枠組みについて理解することができます。

3. ジョセフ・S・ナイ・ジュニア/デイヴィッド・A・ウェルチ、田中明彦・村田晃嗣訳、(2013)『国際紛争―理論と歴史〔原書第9版〕』有斐閣

国内外の多くの大学でテキストとして使われている国際政治の入門書です。パワー、第三イメージ、勢力均衡等の国際政治学の基本的な概念が、具体的な歴史の事例を用いて説明されているので、初学者に読みやすい内容になっています。近年起こっている新しい国際環境の変化に対応する形で、本書の内容は何度も改訂されており、イラク戦争、情報革命、テロや核兵器拡散の脅威、エネルギー資源をめぐる争いなど、最新のトピックも取り上げられています。

4. 渡辺洋三(1998)『法とは何か』岩波新書

著者は、法社会学、民法学の大家です。本書は1979年に刊行され、1998年に全面改訂されました。法学とは正義を問う学問です。法は社会正義の実現を第一の目的としますが、その正義とは最も権利侵害されやすい人々にとっての正義でなくてはならないというのが著者の一貫した立ち位置です。

5. 東野真(2003)『緒方貞子―難民支援の現場から』集英社新書

国連難民高等弁務官だった緒方貞子が、これまでの自分の経験を振り返り語った難民支援活動の話です。1990年代は難民が大量に発生した時代でした。イラクのクルド難民、ユーゴスラビア難民、ルワンダ難民、アフガン難民など、数多くの人々が民族紛争で故郷を追われ、家族や仕事を失いました。緒方氏は難民キャンプの現場を訪れ、過酷な状況に生きる人々をいかに支援することができるのか、世界に問いかけました。「恐怖と欠乏からの自由」という現代国際社会の課題を考えるうえで示唆に富む一冊です。

ピアノ分野

1. グラウト/パリスカ、戸口幸策他訳(上1998, 中・下2010)『新 西洋音楽史』音楽之友社

「音楽史のバイブル」として知られる名著。上巻(古代ギリシャから後期ルネサンスまで)、中巻(初期バロックからベートーヴェンまで)、下巻(ロマン主義から20世紀まで)の3巻から成り、譜例や図版も豊富で、時代の大きな流れの中で各ジャンルの特徴や代表曲の分析が掘り下げて論じられます。世界中の音楽大学や大学院で使われているので、大学院入試や留学試験にも役立つでしょう。関連の譜例集(The Norton Anthology of Western Music)やCD集(Norton Recorded Anthology of Western Music)が音楽図書室に備えられているので自習にも便利です。

2. ゲオルギアーデス、木村敏訳(1993)『音楽と言語』講談社学術文庫

音楽が言葉とどのように結びついて来たかという大切な問題について、中世からロマン派に至るミサ曲や宗教曲の実際を論じながら、時代による変遷とその原因を深く論じた古典的著作。特にミサ曲や、バッハに至るバロックの宗教曲を理解するには必読の書。女学院生ならば読んでおきましょう。文庫化されて手軽に買えます。

3. バッハ(2012)『平均律クラヴィア曲集第1巻 ヘンレ版』

プレリュードとフーガとして1対のなる曲が全24曲からなり、全ての調性を用いて書かれています。フーガは3声、4声、5声の対位法により、「旋律と伴奏」のホモフォニー音楽ではなく、それぞれが独立した声部を持つポリフォニー音楽を学ぶことができます。ピアノを演奏する上で、どの作品にも通じる基礎を学ぶ重要な曲集です。

4. ベートーヴェン(2009)『ピアノソナタ集 第1巻 ヘンレ版』

全32曲からなるピアノソナタは、前期・中期・後期と分けられますが、そのうち15曲までが納められています。古典派の音楽を学ぶ上で欠かせないソナタであり、各曲、急速な楽章、緩徐楽章、メヌエットやスケルツォ、ロンドといった複数の楽章で構成されています。学習者には是非、第1楽章だけでなく、全楽章に目を通し勉強してほしいと思います。

5. ショパン(2010)『練習曲集 Op.10, Op.25  ナショナルエディション』

ピアニストにとって避けて通れないロマン派を代表する作曲家、ショパン。聴けば美しいショパンの音楽ですが、いざ弾くとなるとなかなか難しいものです。絢爛かつ憂愁美をたたえる華麗な作品を演奏するためにも、まず様々なパターンの基本となるエチュードを弾いてみるべきでしょう。全24曲からなるエチュードは、長調・短調を並べた総ての調性で書かれています。

声楽分野

1. グラウト/パリスカ、戸口幸策他訳(上1998, 中・下2010) 『新 西洋音楽史』音楽之友社

「音楽史のバイブル」として知られる名著。上巻(古代ギリシャから後期ルネサンスまで)、中巻(初期バロックからベートーヴェンまで)、下巻(ロマン主義から20世紀まで)の3巻から成り、譜例や図版も豊富で、時代の大きな流れの中で各ジャンルの特徴や代表曲の分析が掘り下げて論じられます。世界中の音楽大学や大学院で使われているので、大学院入試や留学試験にも役立つでしょう。関連の譜例集(The Norton Anthology of Western Music)やCD集(Norton Recorded Anthology of Western Music)が音楽図書室に備えられているので自習にも便利です。

2. ゲオルギアーデス、木村敏訳(1993)『音楽と言語』講談社学術文庫

音楽が言葉とどのように結びついて来たかという大切な問題について、中世からロマン派に至るミサ曲や宗教曲の実際を論じながら、時代による変遷とその原因を深く論じた古典的著作。特にミサ曲や、バッハに至るバロックの宗教曲を理解するには必読の書。女学院生ならば読んでおきましょう。文庫化されて手軽に買えます。

3. (2008)『コンコーネ50番(中声用)』全音楽譜出版

声楽入門として使用する代表的な練習曲(声はもちろんのこと、ブレス、フレージング、音楽構成などの基本を勉強するします)。1~10番位までを、階名、母音唱法で歌えるように、事前準備が必要です。

4. (2012)『イタリア歌曲集1(中声用)』全音楽譜出版

声楽入門としての歌曲集。巻末にはイタリア語の発音方法の詳細が出ているので、これを参考に、3曲程度(4番、22番、29番、36番)の譜読みなどの事前準備が必要です。

5. ピエール=オギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェ、石井宏 訳・解説『フィガロの結婚』全音楽譜出版 新書館

モーツァルト作曲「フィガロの結婚」はオペラの入門でありながら大変奥深い。勉強すればするほど色んな疑問にぶち当たる。この作品は、脚本家ボーマルシェが当時の堕落貴族や不正の法律・権力、思想・言論の自由への賛美などを描いたもので、それをモーツァルト研究の第一人者である石井宏氏が新訳し、わかりやすく作品解説しているものである。

器楽分野

1. グラウト/パリスカ、戸口幸策他訳(上1998, 中・下2010) 『新 西洋音楽史』音楽之友社

「音楽史のバイブル」として知られる名著。上巻(古代ギリシャから後期ルネサンスまで)、中巻(初期バロックからベートーヴェンまで)、下巻(ロマン主義から20世紀まで)の3巻から成り、譜例や図版も豊富で、時代の大きな流れの中で各ジャンルの特徴や代表曲の分析が掘り下げて論じられます。世界中の音楽大学や大学院で使われているので、大学院入試や留学試験にも役立つでしょう。関連の譜例集(The Norton Anthology of Western Music)やCD集(Norton Recorded Anthology of Western Music)が音楽図書室に備えられているので自習にも便利です。

2. ゲオルギアーデス、木村敏訳(1993)『音楽と言語』講談社学術文庫

音楽が言葉とどのように結びついて来たかという大切な問題について、中世からロマン派に至るミサ曲や宗教曲の実際を論じながら、時代による変遷とその原因を深く論じた古典的著作。特にミサ曲や、バッハに至るバロックの宗教曲を理解するには必読の書。女学院生ならば読んでおきましょう。文庫化されて手軽に買えます。

3. 名和秀人(1999)『大作曲家「霊感」の謎』鳥影社

本書は音楽学者の書いたものではありませんが、名曲の基準とは何か、どうして生まれてきたかについて、仮説に基づき展開しています。巻末に年代順名曲表が記載されていて、わかりやすく価値があります。学生さんから、どの曲が名曲なのかわからない、どの曲から練習していいのかわからない、こういったことをよく聞きます。そのような時、音楽史を細かく分析し理解するのも大切ですが、いわゆる名曲というものがどの時代にどういったジャンルでできてきたのかをまずは大まかに知ることも大切です。曲の技術的な難易度はともかく、名作であるなら常識的に知っておくことが大切でしょう。

4. アーサー・M・エーブル、吉田幸弘訳(2013)『大作曲家が語る音楽の創造と霊感』出版館ブッククラブ

本書は、作品が生まれる際の作曲家の生の声が記されている上で貴重な本なのです。演奏する側の人間は、自分の曲でない限り、借り物を以て演奏しているところがある訳で、こんにちモーツァルトが生き返ってきたら、おそらくそこには大勢の演奏家が意見を求めて群がるものと思われます。本書には残念ながらモーツァルトはでてきませんが、ブラームス、ワーグナーなどのいわゆるロマン派の人たちはでてきますから、そこから古いものを類推することは可能でしょう。以上2冊の他に、楽譜の読み方としては大村哲弥著「演奏法の基礎」、楽典の初歩理解として東川清一著「楽典のはなし」がありますが、いずれも絶版です。

5. ブリテン作曲(2013)『青少年のための管弦楽入門 - パーセルの主題による変奏曲とフーガ作品34』 [楽譜] Benjamin Britten:The Young Person's Guide to the Orchestra - Variations and Fugue on a Theme by Purcell, op. 34, Boosey & Hawks, London, Orchestra score.

変奏曲は楽式の基本、粗い素材が少しずつ変化し、熟成され、成長していきます。 この曲ではさらに欲張って変奏ごとにオーケストラの各楽器が紹介されていきます。テーマはパーセル、17世紀後半の人、料理人はブリテン、数年前、コーラス部も挑戦した20世紀の異才・奇才、もう最高! 骨太で美しくお洒落で大胆…… 作曲家不毛のイギリスにあって、まさに奇跡!

作曲分野

1. グラウト/パリスカ、戸口幸策他訳(上1998, 中・下2010) 『新 西洋音楽史』音楽之友社

「音楽史のバイブル」として知られる名著。上巻(古代ギリシャから後期ルネサンスまで)、中巻(初期バロックからベートーヴェンまで)、下巻(ロマン主義から20世紀まで)の3巻から成り、譜例や図版も豊富で、時代の大きな流れの中で各ジャンルの特徴や代表曲の分析が掘り下げて論じられます。世界中の音楽大学や大学院で使われているので、大学院入試や留学試験にも役立つでしょう。関連の譜例集(The Norton Anthology of Western Music)やCD集(Norton Recorded Anthology of Western Music)が音楽図書室に備えられているので自習にも便利です。

2. ゲオルギアーデス、木村敏訳(1993)『音楽と言語』講談社学術文庫

音楽が言葉とどのように結びついて来たかという大切な問題について、中世からロマン派に至るミサ曲や宗教曲の実際を論じながら、時代による変遷とその原因を深く論じた古典的著作。特にミサ曲や、バッハに至るバロックの宗教曲を理解するには必読の書。女学院生ならば読んでおきましょう。文庫化されて手軽に買えます。

3. 伊福部昭(2003)『音楽入門―音楽鑑賞の立場』全音楽譜出版社

孤高の、しかし晩年には人気作曲家となった伊福部昭が易しい語り口でクラシック音楽について記しています。東西の文化を見つめ続けた著者は作曲家にとって金言と思われる言葉を紹介しています。「大楽必易」(司馬遷)。「真の教養とは再び取り戻された純真さに他ならない」(ゲーテ)など。著者は管弦楽曲の名作〈日本狂詩曲〉や映画音楽〈ゴジラ〉の作曲家であり、名著「管絃楽法」もあります。

4. 武満徹(2000)『武満徹著作集(1)』新潮社

〈November steps〉をはじめとする管弦楽曲や〈Water ways〉などの室内楽曲で世界的にも評価される武満徹は、文筆家としても一流でした。そのエッセイ集です。ほとんど独学で作曲家となった著者は、手探りで自らの音楽を発見したと想像されます。作曲において音に向かう厳しい独自の姿勢は、文筆においても同様といえるでしょう。特に「ピアノ・トリステ」は必読のエッセイです。

5. 松村禎三、アプサラス編(2012)『松村禎三 作曲家の言葉』春秋社

音楽を音の構造としてとらえる圧倒的時流に抗して、松村禎三は己の人生をかけて、生命に直結したエネルギーを持つ音楽を書きたいと言い続けました。その若々しい思想は所収の「ストラヴィンスキー考」に明白です。また自らの師について述べたエッセイは、謙虚で格調高いものです。傑作〈ピアノ協奏曲第一番〉オペラ〈沈黙〉の作曲家です。

心理行動科学分野

1. バナージ&グリーンワルド(2015)『心の中のブラインド・スポット』北大路書房

人種、国籍、職業、大学での専攻、性別、年齢、外見など、私達は日常的に、他者を表面的な特徴から判断しています。このように、ステレオタイプや偏見を用いた判断の多くは「非意識的」で瞬時に行われ、誤っていることが多いのです。1つ1つの判断は小さいものでしょうが、それらが積み重なるとどのような影響があるのか、また私達が誤った判断をしてしまう原因は何なのか、どうしたら誤った判断をしないようにできるか――人間の「非意識的」な考えを最新の測定法を用いて得られた研究データをもとに考えていきます。

2. ダニエル・ヒリス(倉骨彰訳)(2000)『思考する機械 コンピュータ (サイエンス・マスターズ 15)』草思社

コンピュータの仕組みの基本原理から、学習や進化的計算などの高度なテーマまで、コンピュータ・サイエンスの内容を幅広く解説している本です。かなり高度な内容も含まれていますが、読み物として分かりやすく書かれていますので、高校生でも、少し頑張れば読めると思います。特に、コンピュータ・サイエンスにおける、ものの見方や考え方に焦点を当てて書かれていますので、理論や哲学に関心がある人にも興味深く読んでもらえると思いますし、コンピュータ・サイエンスを本格的に勉強する前に読んでおくと、理解の助けにもなると思います。

3. 森実恵 (2006)『なんとかなるよ統合失調症―がんばりすぎない闘病記』解放出版社

“身体の病は許せるのに心の病は許せない。なんと不思議なことだろう”今から2400年以上も前にソクラテスの放った言葉である。気の遠くなるような時を経た今、果たして私たちの“こころの病”に対する捉え方は変化を遂げられているのだろうか。我が国の五大疾病の一つに位置づけられ、今では誰もが罹患しうるとされる心の病の回復には社会の受け容れが必要不可欠である。幼少期~よく学んだ大学時代、結婚、出産、そして・・。筆者の語る半生を通して人を読み解くことは私たちとって大きな体験であり、同時に小さな責任かも知れない。

4. 滝川一廣(2004)『「こころ」の本質とは何か―統合失調症・自閉症・不登校のふしぎ』ちくま新書

統合失調症、自閉症、不登校はそれぞれ精神疾患、発達障害、不適応の代表的なものです。本書はそれらを正常-異常の枠組みでとらえるのではなく、「個的」でありながら「共同的」でもあるふしぎな「こころ」の現われとしてとらえ直し、われわれに普遍的なこころの本質を浮かび上がらせていきます。みなさんがこれから学ぶ心理学がかえって差別を生んでしまうような有害なものにならないよう、ぜひ読んでほしい本です。

5. 河合隼雄(1996)『大人になることのむずかしさ』岩波書店

本書が書かれたのは今から30年以上も前である。読者は本書に描かれた様々なつまずきを抱える青年たちを過去の遺物と見るだろうか?それとも、青年と青年に向き合う大人たちが時代と文化を越えて直面する生きることの‘むずかしさ’を本書に見出すだろうか? 臨床心理士の生みの親であり、ユング心理学を日本に紹介したパイオニアであり、文化庁長官を務めた河合隼雄氏による、青年期の臨床心理学。

バイオサイエンス分野

1. マット・リドレー、長谷川真理子訳(2014)『赤の女王 性とヒトの進化』早川書房

本書は「人間の本性」を把握するためには、「人間の本性」がいかにして進化してきたかを理解しなければならないという考えのもとに書かれています。そして、「進化」を「性」という視点から掘り下げて論じています。動物学を学び、科学啓蒙家である筆者は、複雑で難解な生物学的現象を、わかりやすい例を挙げ、多角的な視点から物事を考察がなされ、また翻訳書でありながら、すっと頭に入り込むような読みやすい文章で構成されています。この本を読むことで、「人間の本性」、「女性」とは何かについて考える機会を得て、それは必ずあなたの人生に役立つ知識となりうるでしょう。

2. 塩見尚史・塩見晃史(2017)『生命科学が解き明かす体の秘密』大学教育出版

遺伝子編集技術はめざましい発展を続け、細胞や遺伝子を自由に操れるようになってきました。それにより、ヒトを形作る遺伝子や性格の遺伝子、人類の歴史、あるいは病気を引き起こす遺伝子など、「生命の不思議」とされてきたことが少しずつ解明されてきています。本書は、生命科学が解き明かしてきたそんな体の秘密について書かれた本で、これから「生命科学」を学びたい人々・学生のために、できるだけわかりやすい言葉で解説しており、生命科学の最適な入門書です。

3. 吉森 保(2020)『LIFE SCIENCE 長生きせざるをえない時代の生命科学講義』日経BP

一昔前までは、生命科学についての知識は、医師や研究者だけが身につけていればよいものでした。しかし、現代では、一般社会を生きる人たちが生命科学の知識を身につける必要がある、と筆者は述べています。科学の進歩は素晴らしいことですが、それは同時に、人々に対して、健康や病気の治療についての様々な選択肢をつきつける結果にもなりました。この本は、現代社会を生きる上で必要になる「生命科学の読み解き方」「科学的思考」を身につけるためのガイドブックと言えます。細胞生物学、とくにオートファジーという細胞内現象に注目して、生命科学についての紹介が行われています。易しい文章で書かれていますので、これまで科学の読み物をあまり読んだことのない人も、ぜひ読んでみてください。

4. 丹羽利充・野村文夫 (2013)『医用質量分析ガイドブック』診断と治療社

質量分析というのは、分子1個当たりの質量を精密に測定する分析技術で、分子の質量を測定することで、試料中にはどのような成分が存在しているのか、そして、どれくらいの量が含まれているのかを分析できます。これまで、大気、水質、土壌・地下水、廃棄物といった環境中の試料を分析する目的で質量分析が広く活躍してきたのですが、近年では、医学の分野でも活用されるようになってきました。本書では、質量分析が臨床現場における利用など、医学分野における質量分析の活用について解説されています。講義では出てこないような知識を学ぶことができますので、将来的にバイオサイエンス関連で活躍したいと考えている方には役に立つ書籍だと思います。

5. 佐藤 友亮(2017)『身体知性 医師が見つけた身体と感情の深いつながり』朝日新聞出版

身体とは、人間と社会を結びつけている存在ですが、個々の人間の「身体のとらえ方(身体観)」は、人それぞれです。人は、自分や他人の身体観を理解することによって、人間同士のコミュニケーションを深めることができます。西洋と東洋には、それぞれの文明が作り上げてきた身体観があります。この本では、「西洋医学」「武術・武道」を例として、西洋と東洋の身体観の違いを説明しています。また、西洋・東洋にかかわらず、人間は社会生活を営む上で、「あらかじめ答えの存在しない問題」に対処する必要があります。そのようなとき、人間は、自らの身体を用いて「非分析的判断」を行っています。本書では、非分析的判断を行う上で重要な「身体による感情の形成」についても説明しています。西洋と東洋の身体観の違いを論理的に説明している本は多くありませんので、興味のある人は読んでみてください。

環境・生態科学分野

1. 村上 司 (2021)『イルカと心は通じるか:海獣学者の孤軍奮闘記』新潮新書

本書は日本でのイルカ研究を切り開いてきた著者の経験がユニークに語られている。研究者としての紆余曲折の長い道のり,支えとなった人や出来事、気持ちの持ち方、考え方など、これから研究者を目指す人にとても参考になる実体験が述べられている。研究の進め方、実験方法の工夫、そして研究によってわかってきたイルカの認知、行動の能力なども非常に興味深い。研究者を目指す人、イルカについて興味のある人にはお薦めの書である。

2. 小田亮(2004)『ヒトは環境を壊す動物である』ちくま新書

現代社会において地球環境問題は避けて通ることのできない課題ですが、その対策に関しては、未だ五里霧中というのが現状でしょう。本書の特徴的な視点は、「ヒトは進化生物学的には石器時代のままで、“その場しのぎ”の生物学的特性を保持しているから、盲目的に地球資源を大切にしようと言っても、資源が必要な状況では使ってしまう」というものです。そして、この人間の本質を理解した上で取り組む環境対策こそ実効性あるものになるのではないかと論じています。環境科学概論及び各論を学ぶ前に一読されることを薦めます。

3. 山内淳、馬場正昭(1999)『改訂版 現代化学の基礎』学術図書出版

大学の理工系学部の物理化学の授業では,アトキンスやムーアの教科書がよく用いられます。しかし,内容が豊富で,短期間で読みこなすのは困難です。環境科学や生命科学の研究で,物理化学の手法を用いることがありますが,その背景を学ぶのに役立つのが本書です。物理化学の各分野(量子化学,構造化学,化学熱力学,速度論,電気化学)の基礎事項について,高校程度の数学や物理学,化学の知識があれば理解できるように書かれています。環境・バイオサイエンス学科の学生諸君にお勧めの一冊です。

4. 東京大学「水の知」(サントリー)編(2010)『水の知 自然と人と社会をめぐる14の視点』化学同人

本書は4部で構成され、水問題に対してさまざまな視点から考察されています。はじめに、河川の治水および利水をテーマに我々はこれまでどのように関わり合ってきたかを示し、地域社会の人々や生態系に対する水の重要性およびそれを保全するためのありかたを表しています。また、衛生面から水不足である世界の現状を報告し、水問題を解決するためにどのようなビジネスが行われているかを紹介しています。本書は水環境問題に対して、広範囲な内容を網羅しており、入門書としてふさわしいものです。

5. ジョナサン・ワイナー(樋口広芳・黒沢令子訳)(2009)『フィンチの嘴 ガラパゴスで起きている種の変貌』早川文庫(原著Weiner, S. The Beak of the Finch: A Story of Evolution in Our Time)

「確か、雄の5629はフクロウのペリットになっちまったと思うけど、他の連中はみんな元気でやっている」長年にわたりダーウィンフィンチのほぼ全個体の生死や繁殖の成績について個体追跡することで進化学の画期的成果を生んだグラント夫妻の研究を紹介した書。ある鳥の個体がどのような運命をたどったか、というおよそ役に立たないデータを積み上げ、そこから進化の本質に迫ります。自然科学の営みに立ち会う醍醐味を味わいましょう。

女性学分野

1. S・J・セシ, W・M・ウィリアムス編(大隅典子訳)(2013)『なぜ理系に進む女性は少ないのか?―トップ研究者による15の論争』西村書店

日本でも理系に進む女性は少ないのが現状ですが、性差が存在する理由を考えるために本書が役立ちます。欧米のトップレベルの研究者たちが、統計学や進化論、社会学、ホルモン、神経科学など、さまざまな科学的知識に基づいて、その理由について論理的に考察しています。男女の間で生まれつきの能力差があるとする研究者と、教育環境の影響であるとする研究者の両方の主張が紹介されています。異なる見解を知ることが問題の理解のための出発点となります。

2. 加藤秀一(2017)『はじめてのジェンダー論』有斐閣

「「人間には男女がいる」ということを自明の前提と置くのではなく、逆に考え方次第で簡単にないことにできるようなものとして扱うのでもなく、〈「人間には男と女がいる」という現実を、私たちはどのようにしてつくりあげているのか〉を問い続けるということ」。筆者はこのように、本書の特色を説明しています。「はじめて本気でジェンダー論を学ぼうとしている人たち」に向けられた、わかりやすさと「深さ」「緻密さ」を兼ねそなえた、格好の入門書です。

3. 森山至貴 (2017)『LGBTを読みとく』筑摩書房

「LGBT」という言葉は今や多くの人が知っていると思います。ただ、この言葉を正しく説明できる人はどのくらいいるのでしょうか? この本は現代の多様な性のあり方について「きちんと知りたい」と思っている人の欲求に十分こたえることができる内容となっています。多様な性についての歴史や具体的なエピソードが取り上げられており、クィア・スタディーズという学問を通して、セクシャルマイノリティについての正しい知識を得ることができます。

4. 北村紗衣(2019)『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』書肆侃侃房

本書は、シュークスピア劇からディズニー、カズオ・イシグロまで、さまざまな小説や映画をフェミニストの視点から読むとどう批評できるかを痛快に論じた本である。批評とは決して作品の一部だけを切り取って好き勝手に批判することではない。作品の全体の意図を読み取り、批評する者の立場をはっきりさせ、ある視点から議論する。本書を読むと、いままでの小説や映画の読み方が広がるだけでなく、「フェミニストの視点」とは何かを知ることができる。そしてそれは、誰もがもつ「内なる声」への問いかけとなるだろう。

5. 隠岐さや香(2018)『文系と理系はなぜ分かれたのか』星海社

「文系」「理系」という根拠がありそうで実はあまり意味のないカテゴリー分けは、いろいろなところで気軽に使われる言葉です。中でも時に「女性は文系。理系には向いていない」という考えや価値観は、女性が物心づくころから陰に陽に晒され続ける価値観でもあります。小学校高学年になると、おのずと理科の実験で試験管を持たずに記録係になったり、算数の授業で積極的に手をあげなくなったりするのは、果たして女の子たちが「理系にむいていない」からでしょうか。高等教育への進路選択においても、数学や理学を志望すると(男性なら聞かれないのに)「なぜ?」と言われることもあるでしょう。(薬学や建築などの実学だと、あまり聞かれないようですが。)本書は、文理の概念分けを歴史的にたどりつつ、合わせて現実の問題としての「理系学問選好の際のジェンダーバイアス」について、わかりやすく書いています。

院長推薦

1. 『聖書』,新共同訳(1987),聖書協会共同訳(2018),日本聖書協会

聖書は2,550を超える言語に翻訳され、毎年3,500万部頒布されているという人類共有の財産で、旧約と新約を合わせて66の文書からなります。聖書の各書は書かれた時代(前10世紀頃~紀元2世紀)も、言語(旧約は主にヘブライ語、新約はギリシア語)も、内容(歴史物語、律法、預言、教訓文学、宗教詩、書簡など)も異なりますが、それぞれに神戸女学院創立の土台となった隣人愛について考えるヒントを、多様な立場から語り示しています。聖書は目にとまった箇所を読むだけで十分かもしれなせんが、通読してさまざまな理解に触れ、それらを批判・整理することが大学に連なる人に、よりふさわしいと申せます。

2. 武田清子,(2009),『出逢い:人、国、その思想』,キリスト新聞社

本書は著者の自伝的な思索の書。著者は第二次世界大戦前の本学卒業生で、国際基督教大学名誉教授。惜しくも2017年4月に、100歳で天に召されました。神戸女学院でキリスト教主義、国際理解の精神、リベラルアーツ、女性教育、少人数制による養いを十分に受け、英文科生でしたが、哲学やキリスト教倫理への関心が拓かれます。風雲急を告げる1930年代末に米国に留学し、帰国後は創立直後の国際基督教大学で思想史の教員として教壇に立ちました。武田(長)清子先生が、神戸女学院での出逢いをその後の歩みにどのように活かしたかを読み、同じ岡田山に学ぶものとして、ご自身の人生を考えていただきたく思います。

3. 竹中正夫,(2003),『C.B.デフォレストの生涯』,創元社

本書は本学院第5代院長シャーロット・バージス・デフォレスト(1879-1973)の評伝。著者は本学院の理事を長くお務めくださった先生です。デフォレスト先生は1905年、神戸女学院に宣教師(教員)として着任。1915年から1940年まで院長の重責を担い、1933年にはキャンパスを神戸から現在の岡田山に移転させる大事業を成し遂げました。岡田山の学舎はヴォーリズの設計として知られますが、それはデフォレスト先生の思想と信仰が反映したものでした。本書から先生の人となりとお考え、それに基づく数々の業績、苦悩と克服への道筋を知り、神戸女学院に流れる祈りを共有できたらと思います。

4. 神谷美恵子(2004 初版1966年)「生きがいについて」みすず書房

本書は最近ETVの番組『100分de名著』でも取り上げられた、現代日本の古典とも評せる作品です。「生きがい」とはとても魅力的な用語であると思えます。著者によれば、これは日本語独自の概念。著者はこの語を「はりあい」や「よろこび」「幸福」、あるいは(達成すべき)目標や使命といった言表と比較し、逡巡する思索の中で、生きがいが何か固定された終着点として存在するのではなく、「他者」との接点において見出されることを示唆します。これは聖書の愛(アガペー)の理念とも重なり、かつリベラルアーツの一つの到達点とも言えます。著者は当初は津田塾で文学と哲学を学び、ハンセン病患者との出会いをきっかけに医学を志して精神科医となり、晩年まで岡山県のハンセン病療養所で医療に従事しました。その間、神戸女学院大学で1956年から1964年まで教鞭を執っておられます(1960年から教授)。この書の草稿の多くは、著者が岡田山に身を置く時期に執筆されました。そのことも心にとめながら読むと、さらに躍動感が拡がります。

5. 藤本夕衣,(2012),『古典を失った大学―近代性の危機と教養の行方』,NTT出版

近年の日本では、大学が何であり、何を学び考える場所であるか、という議論が混迷した状態にあると感じられます。その場合、大学における学修の価値が「社会で役立つか」「生活の資となるか」といった「有用性」を軸に展開されています。本書はそれらの問題性を、20世紀中頃から末にかけて活躍した思想家の所見をもとに、淵源に遡ってよく整理し、超克の方向を「古典」と「教養」を手がかりとしながら指し示しています。著者は、若手の女性教育学者。決して平易な書物ではありませんが、一人一人に大学で学ぶ意義を考えさせてくれる良書です。